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メモ帖にぽつぽつうってたもの。
貌(かたち)のない何かとのお話。
続きからどうぞ。
BGM:緑茶の音(http://asiangreen.boo.jp/)より【forest life】
…闇が迫る。
こんなにも昏いというのに、それは迫ってくる。
二人で駆けたこの小路を、其れは追ってくるのだ。
それはもう一度引き戻す為。
それはもう一度闇に孵す為。
壊(恋わ)れかけた此れを、元通りにする為に。
それは同胞(ともがら)を慈しむ、気の狂った幻想の、たったひとつしてやれる、
……それは、こうい、なのだろう。
半身を、見やる。
同じ姿をした、半身。
頬に赤み差し、小さく肩で息をして。
握る手はそれでも、強く儚くて。
…そうだ。
わたしは、この手を。
「 い、って 」
視線が、絡む。
未だ小さく肩で息を吐きながら、困った顔を。
それが何時も通りで、酷く嬉しい。
「この 小路の、先、」
繋ぐ手とは逆の手を挙げ、指し示す。
共に目指す、暗闇に覆われた小路の先。
光の視えない、帰り道を。
「 鈴の音を、頼り に」
微かに聞こえる、静謐な音。
闇を払うことすらも出来ない、幼い音。
誰かの想いを、響かせる程度の。
「ただ、只管 に 駆け抜け、 て」
闇が迫る。影が迫る。
光が在れば強くなり、闇が濃ければ包み込む。
あんな暗い場所にずっと居た事すら、識らず。
「 振り返ら ずに、奔って 、 」
名を、呟く。
音には、成らずに、鎔けて、失う。
こんなにも同じなのに、唯一違ってしまったもの。
半身が、首を振る。
頬の赤み強め、首を振る。
握る掌、両の手絡ませ、強く握る。
いや、いや、いや。
一緒に往こう、行こう、逝こう。
この手を離したくない、と。
ずっと繋いでいよう、と。
夢なんて視なくても構わない、と。
酷く夢に近づいた、決して夢に近づいて欲しくなかった半身が。
涙声、震える肩、弱い息、手に縋る。
涙は毀れない。痛まない。けれどどうしても。
違う願いを持った半身の、憐れな姿。
叶わないものを得ようとして、此処まで堕ちたか、半身よ。
とうとうこの極地、己の正しき在り様を受け入れようとするか、半身よ。
…それでも。
それでも、同じ夢見た、幼い音の子。
弱く鳴る鈴の音、互いに意思を違えようとも。
それでも、同じ夢視し、鈴の幼子よ。
「だいじょうぶ」
「ただ、はしればいいよ」
「たどりつきたい、ばしょまで」
「―――あいたいひとがいる、ばしょまで」
絡む指が、ゆっくりと解けていく。
重なっていた影が、離れていく。
同じ姿をした半身が、遠のく。
「だいじょうぶ」
さいごに、半身に伝える。
何時ものような軽やかさで。
何時ものような二人らしく。
半身(かのじょ)の背を、押す言葉を。
「往って」
白い指が、解けた。
弾んだ鞠のよう。
背を向けて走り出す彼女。
足を止めず、振り返りもせずに。
唯只管に、闇の彼方を。
その先にある、暖かな光の許へ。
目指し、溶けて消えた。
「其れで、如何成るというかな」
背後から響く声。
闇を蝕む、やみ。
ゆったりと振り返る。
絡んだ指の無くなった掌には、祈りの具現。
闇のやみを見据える。
「喩え辿り着こうとも、成就しない物も在る」
「痛みに苦しみに哀しみに苛む」
「人の為の幻想で在れ」
「共に歩めると思うか」
「幻想は幻想らしく、人の妄言と躍れ」
やみが、ばらまかれた。